最近よく耳にするようになったDX(デジタルトランスフォーメーション)。IT技術を用いて人々の生活をより良いものへと変革することを言います。この記事ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の定義や目的、課題やDX推進に置いて必要な人材などを具体的に解説していきます。
DXとは、『デジタル技術を用いて人々の生活をより良いものへと変革させること、既存の枠組みや価値観を覆すような革新的なイノベーションをもたらすもの』のことをいいます。身近なサービスで言うと、飲食業界におけるスマートフォンからの事前注文アプリの導入や購入履歴からレコメンドされる機能、フードデリバリーサービスなどは、それまでの「外食は店舗に直接行って注文をする」といった私達の持っている価値観をいっきに覆すサービスとして広がりました。
このようにDXとはただそれまであったものをデジタル化させるといったことではなく、デジタル技術を用いて企業価値を大きく高めたり、人々の生活や価値観を変えるような革新的なイノベーションのことを言います。
DXの定義について見ていきましょう。
デジタルトランスフォーメーションという概念は2004年頃にスウェーデンのウメオ大学教授であるエリック・ストルターマンによって提唱されました。彼は「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」とIT技術の浸透は社会全体(人々の生活)にも良い影響を及ぼすものだと考えました。この考え方は社会的で広い意味を持ちます。
上記の定義とは別に主にビジネスシーンで使われる場合をデジタルビジネストランスフォーメーションといいます。マイケル・ウェイド氏らによって2010年頃提唱され、「デジタル技術を用いて組織を変化させ、業績を改善すること」と定義されています。
次にDX推進の主な目的について解説していきます。
DX推進によって人が手作業で行っていたことを自動化したり、簡素化することができます。例えば、クラウドストレージを導入することでどこからでも業務資料にアクセスが出来るようになったり、テレワークを導入することによりオフィスにかかる費用を削減したりすることで社員の生産性向上に繋がる可能性が高まります。DX推進を行うことで人件費の削減やその他の固定費の削減が可能になります。
BCPとはBusiness Continuity Planの略で事業継続計画と訳されます。災害や突発的なシステム障害が発生してしまった際でも、被害を最小限に抑えて、迅速に通常業務を再開できるように対策やシミュレーションを立てておく計画のことをいいます。例えば、新型コロナウィルスが蔓延した際に、すぐにリモートワークに切り替え体制を整えられた企業と導入までに時間のかかった企業がありました。万が一の事態に備えてDX推進を行うことで危機的な状況下に置かれてもリスクを最小限に止めることが可能です。
私達の生活においてもIT技術は日々進化し、IT環境がなくてはならないものとなりました。IT技術の進歩は非常にスピードが早いため、時代の環境に適応して柔軟なビジネス展開が出来ることが変化が多い現代においては重要になります。DX推進は短期的に見れば導入のコストはかかりますが、長期的な経営戦略を検討した上で推進すれば長期的なメリットに繋がるでしょう。
2018年に経済産業省が出した「DX推進ガイドライン」では、「2025年の崖」というキーワードが注目を集めました。「2025年の崖」とは、2025年までに日本企業がDX推進を進めなければ2025年〜2030年の5年間でおよそ年間最大12兆円の経済的損失を被る可能性が有ると発表したものです。それだけ既存のシステムを継続して使い続けることは、生産性の低下や維持費の負担が大きく大きな経済損失に繋がると言われています。
DX推進が重要とされ、注目を集めている一方で多くの企業で未だに未着手または社内に浸透しきっていない現状があります。ここではDX推進を行う際に生じる課題について解説していきます。
日本では現在、多くの企業で社内のシステム開発や改修を外部のベンダー企業に委託しています。そもそも自社でIT人材を抱えていないケースもあり、いざ新たにDX推進を始めようとしても対応できる人材がいないという課題があります。IT人材の人手不足は顕著で、DX推進に知見の深い人材をすぐに採用することも難しく、仮に社内にシステム系の部署があったとしても既存のシステムの運用・保守を対応しており、新たに体制を作ることができていないというのが現状です。
社内にすでに既存システムがあることはDX推進を妨げる要因として一つ考えられます。多くの企業ではシステムをすでに導入してから数十年経過しているところがほとんどです。既存のシステムを短期的な視点から常にアップデートすることでシステムが肥大化したり複雑化しています。それによりシステムがブラックボックス化しており、刷新することが困難になってしまっているというケースもあります。
DX推進を実行するには、大きなコストがかかります。多くの企業がDX推進の目的に挙げるのは「コスト削減」を期待する声が大きく、DX推進を行うことで長期的な視点でみるとメリットが大きいことは確かです。しかしながら現在およそ80%の企業でIT関連費用は既存システムの維持、運営に充てられているのが現状で、新たな価値を生み出すDX推進にまでなかなかコストをかけられないというのも現実としてあります。長期的なDX戦略を立てることが重要です。
DX推進とはただ業務をデジタル化するだけのものというわけではなく、DXを通して最終的にどんなビジネス変革を起こすかといった長期的なビジョンを明確にした上で進めることが重要とされています。効果的に推進する為にはまず経営的な観点から検討し、組織や体制の構築を行った上で長期戦略をより具体的に検討することが必要になります。
実際にDX(デジタルトランスフォーメーション)を導入している事例について具体的に解説していきます。
新型コロナウィルスの影響を大きく受けた小売、飲食業界では実店舗からネットでの販売にシフトするなど急速なDX推進が多くの企業でも検討されています。大手コンビニチェーンのローソンでは、遠隔操作ロボットを実店舗に配置し品出し作業をロボットが行うシステムを一部店舗で導入しました。ロボットを導入し品出し作業を自宅やオフィスから行うことが出来、かつ一度で複数の店舗の作業を対応できるということもあり、人員削減に繋がります。
鉄道業界を主な事業としている東日本旅客鉄道株式会社でもDXが進んでいます。2020年からは各新幹線でのチケットをIC化することで切符を受け取る必要のない新幹線利用が可能となっています。また「モビリティ・リンゲージ・プラットフォーム」を構築し、「JR東日本アプリ」を利用することで「リアルタイム経路検索」や「リアルタイム列車混雑状況」を提供することにより「ストレスフリーな移動」の実現を可能にしました。
世界でも有数のタイヤメーカーであるブリヂストンの事例を紹介します。株式会社ブリヂストンは、経済産業省と東京証券取引所が共同で発表する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」に2020年、2021年と2年連続で選出されました。「DX銘柄」とはデジタルトランスフォーメーションを推進するための仕組みを構築し優れた活用実績を持つ企業に与えられます。具体的な取り組みとしては、高度設計シミュレーションを活用した「Bridgestone MASTERCORE」を開発しました。鉱山車両用タイヤの開発におけるシミュレーションにデジタル技術を用いることで、鉱山のレイアウトや車両の走行ルートを顧客毎の異なるオペレーションにも対応できるプラットフォームを活用しました。
DX推進を行う上で「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」といった言葉を知っておく必要があります。よくDX(デジタルトランスフォーメーション)と混同されがちですが、正確にはDX推進における段階に違いがあります。ここではその違いについて詳しく解説していきます。
まずデジタル化の第一段階と言われているのが「デジタイゼーション」です。業務プロセスの一部分に手法としてデジタル技術を取り入れることにより新たな価値を付与することを言います。例えば、RPAを導入し一部分の業務を自動化する、であったり、通信手段をFAXからPDFにするなどです。一方でDXとは業務の一部だけをデジタル化することではなく、企業価値を高める戦略としてデジタル技術を取り入れるだけでなく、組織や体制の基盤も変えることでその先のビジョンを達成していく取り組みのことをいいます。
次にデジタル化の第二段階として「デジタライゼーション」があります。デジタル技術を用いることにより、ビジネスプロセス自体を変革しより良いビジネスモデルを実現することをいいます。例えば、マーケティングオートメーション(MA)を導入することでマーケティングを自動化し顧客に重要な動きがあった際に通知が来るようにする。また通知に対するフォロー体制を社内でも整えることでビジネスチャンスを逃さず対応することが出来る。といったようにただ業務フローの中にデジタル技術を取り入れるだけでなく、組織体制も変えてよりビジネスの価値を高める動きのことをいいます。デジタライゼーションが進むとDX推進にも近づきます。
DX推進を行うには、様々な専門的スキルを要した人材を集めてチームを作った上で推進しなくてはいけません。ここではDX推進に必要な人材について解説していきます。
まずは社内のDX推進実現の事業責任者であるビジネスプロデューサーです。よく事業開発の場ではCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)ともいわれます。経営層となり事業のモデルやプロセスの変革の指揮を取る役割です。ビジネス戦略やプロセス構築能力も必要になりますが、デジタル技術においても深く広い知見が必要になりますし、大きなプロジェクトを推進していく人材、予算のリソースマネジメントスキルも必須です。
ビジネスデザイナーはビジネスプロデューサーと共に、DX推進の構想を具体化し現実的なビジネスモデルやプロセスを作成していく役割を担います。実現可能な企画にするために、データや情報を収集し、企画書に落とし込み、関係者を巻き込みながら推進までを担います。
アーキテクトとはビジネスプロデューサーやビジネスデザイナーが設計した事業構想を元に具体的にデジタル技術を取り込んでいくシステム設計を行う設計士のことをいいます。どういった構造にすれば、実現したいものになるのか、技術的な知見を用いて安全性や可用性も加味しながら構造設計を行う役割を担います。
エンジニアはアーキテクトが設計した設計書を元に実際にデジタルシステムを構築する役割を担います。DX推進におけるエンジニアには、ソフトウェア開発からクラウドの知見、ネットワーク管理、具体的なプロダクト開発まで非常に幅広いスキルを求められるため、幅広く経験をしている人材であることやDX推進に携わった経験を持っていることが重要といえるでしょう。
これまでDX(デジタルトランスフォーメーション)の目的や課題、DX推進を行うための必要な人材について解説していきました。冒頭でも述べたように、現在「2025年の崖」と言われるほど国も日本企業のDX推進については急務であると考えています。DX推進における課題も多くありますが、デジタル技術を用いて新しいビジネスモデルの構築やプロセスの大きな変革ができれば、組織の価値は非常に高まります。DXについてこの記事に記載されている最低限の内容は理解をしておくようにしましょう。